老後の資金って何だろう?

Bookエッセイ

垣谷美雨・著『老後の資金がありません』――あまりに現実的なタイトルで、夢も希望もあったもんじゃない……と敬遠してた。でも、ちょっと気にはなってた(;^_^A

ギリギリセーフ?!

2年前に映画化され、主人公・篤子役を天海祐希さんが演じたことは知っていたし、それ以降、文庫本の表紙絵も見事に天海さん。読み始める前から、どうしたって「篤子=天海祐希」だ。

これが、映画→小説のデメリットだけど、私は映画を見たわけではないので、主人公・篤子の顔が天海祐希さんってだけ。小説を読むタイミングとして、ギリギリセーフとしよう。

というわけで、今回、遅ればせながら読むことにした。

お金がないと人生が成り立たない?

篤子、50代主婦。家計を切り盛りしながら、娘と息子を大学まで出し、マンションのローンを払い続けている。自らもパートながらフルタイムで経理職を続けてコツコツ貯金してきたので、このままいけば老後資金は一応、安泰のはずだった。

ところが、娘の派手婚(500万)、舅の葬式(200万)が続き、1200万円溜めていた貯金がいっきに半分以下に減ってしまう。それらすべてで篤子の貯金を取り崩すのはどう考えてもヘンだけど、「あり得ない」と思いながらも結局払う羽目になっていく展開も妙にリアル。

そのタイミングで、篤子も夫も失業するという事態に……。

お金で人生は測れない。だけど、お金がないと人生が成り立たない。そんな中で鼓舞奮闘する篤子の姿から目が離せなくなっていく。

娘が急に豹変したわけではない

どう考えてもつらい状況なのに、不思議とページをめくる手が止まらない。

「お金がない」という事態は深刻で到底笑えることじゃない。なのに、次々起こる難題に立ち向かう篤子の生真面目さの中に、どこか優しさや人間味がにじみ出ていて、そこに救いを感じるのだ。

読み進めると、何かしら、どこかしらに、読み手の誰もが自身を投影する場面があって、そのとき篤子がどうしたか、どう感じたか、どう考えたかに、ちょっとしたヒントが散りばめられてもいる。

娘が結婚を機に豹変する場面は、さすがに無理があると感じた。

一方で、もしかしたらそういうこともあるかもしれないとも思った。親は子どものすべてをわかっている気でいるけれど、実はすべてじゃない。いや、わかってないことのほうが大きかったりする。

娘が豹変したのではなく、それまで篤子が見ていた娘・さやかが「ぼんやりしていて受け身」なだけで、実はもっと違う側面を、さやかはもともと持っていたのだろう。

ひとりぼっちじゃない!

読後感は、思いのほか、爽やか。

「お金がない」状況の厳しさをリアルに感じながらも、「やっぱりお金だけじゃない」ことも感じさせてくれる。人間、最後はひとりだけど、いやいや、ひとりぼっちじゃないんだってことも感じる。

友達は大事。くだらない見栄をはらずに、つらいときに「つらい」と言い合える友達がひとりでもいたら、きっと老後はしっかり生きられる。そんな勇気ももらえる。

50代以降の女性は、一度読んでみて損はない。

 

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