誰もが、自転しながら公転してる

Bookエッセイ

山本文緒・著『自転しながら公転する』、なんて魅力的なタイトルだろう!と思った。

女性が生きていくということ

地球は自転しながら公転してる。宇宙上の惑星すべてが、自転しながら公転している。

そんな惑星に生きる私たち一人ひとり、自転しながら公転してるんだということが、じんわり沁み込んでくるような物語だった。

主人公・都(32歳)の視点で描かれるのは、女性が生きていくことそのもの。好きな洋服ブランドに就職して生き生き働いてきたけど、年齢とともに行き詰まりを感じ、そんなところに家族の事情も出てきて、仕事をリセット。理想の男性像はあるけれど、実際に出会い、惹かれたのは真反対のタイプ。確固たる自信も経済的自立も難しい状況の中で、どう生きたいのかを探していく。

そんな都の人生がとことん描かれるのかと思ったら、都を見つめる母・桃枝の視点も、ちょいちょい挟まってくる。桃枝の更年期障害があまりにひどく、放っておけないという理由で都は東京から茨城に帰ってきたのだが、母にしてみたら、娘が帰ってきて万々歳!というわけではなかった。

母の在り方、祈り

体調不良でこれまでのように動けないもどかしさ、家族に迷惑をかけているつらさ、そんな思いを抱えながらも、日々、娘のちょっとした表情や習慣の変化から、敏感に娘の「今」を読み取っていく。都は、母は自分の体のことで手一杯と思っているけど、とんでもない。母は強い。娘に向ける眼差しは、自身がどんな状況でも冴えているのだ。

だけど桃枝は、娘に何も言わない。徹底的に見守っている。気が付くと、いつの間にか私の中で、主人公が都から桃枝になっていた。母親の在り方。すごさ。そして祈り。

母は娘を見ている

結局、母親ができることは、見守ることなんだろうか。

ていうか、見守るって難しいよなぁ。見てると、つい口を出したくなる。

「こうしたら?」「それはやめとけば?」というふうに。

娘を徹底的に見守り続けた桃枝は、後に自身の中に潜む体調不良の原因に気づいて行動に出る。その思い切った決断に家族は驚くけれど、桃枝自身は揺るがなかった。その揺るがない在り方を育んだのが、娘を見守り続けた日々にあるんじゃないかと私には思えた。

見守る。揺るがない。決断。どれも難しいし、一朝一夕ではできない。

きっと少しずつ、自分の中で育てていくものなんだろう。

物語は、都の娘・みどりの結婚式で幕を閉じる。このとき都は、アパレルの仕事で毎日忙しく、娘のことより自分のことで手一杯の様子(みどりにはそう見えている)。

いやいや、そうじゃない。どんな状況でも、母は娘のことを見ている。見守っている。

 

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