闘わない乳がん闘病記『くもをさがす』
作家の西加奈子さんが、カナダ留学中、乳がんになった。
初のノンフィクションは
言葉の壁と、医療体制の違いに翻弄されながらも、決して投げ出さず、カナダの医療をしっかり受けて、治療を完遂。1年に及ぶ治療期間中のリアルな思いを言葉に紡いだ。
だからノンフィクション。『くもをさがす』は、西加奈子さん初のノンフィクション作品となった。
乳がん闘病記なんだけど、西さんは、何とも、誰とも、闘ってない。だから、読んでいて重くない。苦しくない。それどころか、くすっと笑えたり、ほろっとしたり。気づいたら、こちらが励まされている。
カナダの看護師さんは関西弁?!
連絡ミスで専門病院になかなか繋がらなかったり、手術直前に名前を取り違えられたりと、西さんは治療中、日本では考えられない事態にいくつも遭遇する。きっとそのときどきは、大変な思いをしたと思う。だけど、恨み言にならないのだ。難所をなんとかかいくぐり、ちゃんと行くべきところに行き着いている。
そして何より、治療風景がとにかく明るい。抗がん剤投与中は看護師さんとのおしゃべりを楽しみ、手術直前にちょっとしたハプニングがあるのだけど、手術室へ向かうストレッチャーの上で西さんはゲラゲラ笑いながら運ばれていく。
カナダだから？ 西さんだから？ どちらもかもしれないけど、結局、目の前の出来事を、その人自身がどう感じるか、どう考えるかで、それは怒りにも、笑いにも、いかようにも変わるんだってことを、ひしひしと感じた。
看護師さんたちの言葉が関西弁なのが、また可笑しい。関西弁なワケないじゃん！と最初はちょっと鼻白んだけど、読んでるうちに、私の中でも、彼女たちの言葉はすっかり関西弁に落ち着いてきた。
外から見た日本の今・・・
カナダから2年ぶりに帰国した西さんを圧倒したのは、日本の広告、宣伝、そして騒音だった。
電車に乗れば動画広告。町を歩けば看板、宣伝。そしてそれらは皆、早く早く！と急きたて、「老いるな！」「若くあれ！」と煽った。
たしかにそうだ。女性誌の特集は、シミ、しわ、ほうれい線との闘いばかり。日本はいつからアンチエイジングを褒めたたえる国になったのだろう。年をとっちゃいけないの？
いいじゃん。それが、生きてるってことなんだから。そもそも若く見せることに何の意味があるの？……なんて言おうもんなら化石扱いだ。そもそも30年前は「アンチエイジング」なんて言葉、あったっけ？
「あなたの体のボスはあなた」
彼女は遺伝性乳がんだったため、予防的措置として両方の乳房を切除したことも本書で明かした。
乳房再建の選択肢もあったけれど、再建しないことを選び、美しい1本の手術痕を見て「かっこいい！」と心から思ったそうだ。そして、手術を終えて1年以上経つ現在も、今の自分の体が大好きだと西さんは言い切る。
「あなたの体のボスはあなた。決めるのはあなたよ」
カナダの医師が西さんに言ったというこの言葉、すごくいい。
にほんブログ村
↑ ブログ村のランキングに参加しています。応援クリックお願いします。