言葉に傷つき、言葉に温められ
言葉は刃になる。
目に見えないけれど、あるんだよ
言い放った本人は、それでスッキリするのかもしれない。
だけど、一度吐き出された言葉は、決して消えてなくなりはしない。
「目に見えないけれど、あるんだよ」って金子みすずは言ったけど、言葉もきっとそう。目に見えないけど、あるんだよ。
口から出された言葉が大きな文字型になって、地面に落ちた瞬間にバラバラに割れて壊れてしまえばいいのに……って思うことがある。
アニメではそんな場面が出てきたりするけど、決してそんなふうに消えてなくなりはしない。なぜなら言葉は、人の思いが音となって、目の前の相手にじかに向けられるものだから。
だから、ときに言葉は刃となって、人の心をグサッと突き刺す。その傷はたぶん、長い間、消えない。
水に流せばいい
そんなとき、私はいつも、水に流そうと思う。……いや、「水に流そう」と決める。
昔、田口ランディさんがエッセイに書いていた。
「私は決して忘れない。ただ、水に流すのだ」と。
逆に言うと、忘れなくていい。水に流してしまえばいい、ってことだ。
このエッセイを読んだのは20代後半で、当時、「なるほど!」と膝を打った。
そうだ。たしかにそうだ。
無理して忘れなくていい。水に流せばいいんだ。
水はすべてを流してくれる。その水に返してしまえばいい。
そう思うと、当時、つらく思っていたあれこれも、気楽に思えた。
数十年経った今も、言葉に傷つけられるたびに思う。「忘れなくていい。水に流せばいいんだ」と。
やっぱり、言葉が好き
人は、言葉に傷つけられ、そして、言葉によって救われる。
そんなことを、人間は未来永劫、続けていくんだろうか。
言葉は刃。でも、そんな心を温め、包んでくれるのも、また言葉。
やっぱり私は、言葉が好きだ。
ある意味、言葉に敏感だから、言葉の刃にグサッとやられる傷も深いのかもしれない。
だけど、思う。
言葉に鈍感にはなりたくない。だって、やっぱり言葉が好きだから。
グサッとやられる分、言葉にたくさん温められ、救われてきたことも数え切れないくらいあるのだから。
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