ドビュッシーを弾く

日々のこと

月

昔からショパンが好きだ。30余年ぶりにピアノを再開して3年、弾いてみたかった曲を順番に選んでいったら、気づくとショパンのオンパレードになっていた。

ショパンが好き!

「ノクターン」、「別れの曲」、「幻想即興曲」と来て、さすがにショパンから離れてみようと思い、これまた昔から好きなリストの「愛の夢」に行った。

とはいっても「愛の夢」、これをずいぶん前に初めて聞いたときは、「ショパンじゃないの?」と思ったものだ。それほどにショパンの世界観を感じた。だから、ずっと好きだったのだろうけど。

リストとショパンは1歳違いの同世代。同じ時代にパリに住み、互いの才能を尊敬し合う親しい友人同士だったが、人間関係のいざこざから仲違いし、その後は永く疎遠な日々を送ったらしい。

聴く人を圧倒する超絶技巧なリストの作品とは対照的に、ショパンは柔らかく繊細で詩的な世界観が持ち味。一説によると、リストはショパンの作品に嫉妬にも似た憧れを抱いていたとも言われている。二人の仲は決裂したまま時が流れ、晩年、ショパンの訃報に触れたリストが、ショパンへのオマージュを込めて作ったのが「愛の夢」だったようだ。

「愛の夢」にどことなく、いや、かなり強くショパンを感じるのはそういうことだったのか…と腑に落ちた。

私の「月の光」を求めて

「愛の夢」が終わったとき(とても弾きこなせたとは言えないレベルだが)、先生に次の曲として薦めてもらったのがドビュッシーの「月の光」だった。

数年前、娘のピアノ発表会で、大学生だっただろうか、清楚な佇まいの女性が演奏した「月の光」に魅了されたことを思い出した。

華やかな発表曲が多い中で、彼女の「月の光」はどこまでも静かで、凪いでいた。盛り上がるでもなく、ワクワクするような箇所はどこにもなかったが、静かな真っ暗な夜の海に、くっきり浮かぶ、なぜか三日月を思いながら聴いた。

テンポが独特でリズムの取りにくいドビュッシーの曲は、弾く人によってイメージも風景も全く違うものになる。YouTubeで辻井伸行さんはじめ、何人ものピアニストが奏でる「月の光」を聴いてみたが、誰一人、同じ世界感の人はいなかった。

私の「月の光」を弾いてみたい、と思った。

というわけで、現在、トビュッシーさんと格闘中。つい、ジャジャーンと弾きたくなっては、「月」を見失ってしまう。月を驚かさないよう、雲に隠れた月に語り掛けるような演奏をしたいけど、まだまだ道のりは遠い。だからこそ面白い。

稚拙ながら、私の「月の光」をしばし追い求めてみようと思っている。

 

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