ある美容師さんのつぶやき
フラメンコのおさらい会を終えて、まず、美容室に予約を入れた。
3カ月ぶりの美容室で
舞台はまとめ髪にするので、髪は長いほうがいい。1カ月ほど前からカットしたかったけれど、おさらい会が終わるまではと我慢した。
舞台を終えて、久々の美容室。毎回カットしてくれるSさんの「お久しぶり!」の声に迎えられ、早速、鏡の前に座る。「伸びましたねー」と笑いながら、髪のボリュームと長さをチェックするSさんを鏡越しに見ていて、ちょっと普段と違う感じがした。
健康体型で声が大きく、目がキラキラしている彼女が、心なしか元気がない…ように見える。忙しくて疲れ気味かな…と思い、しばらくそっとしておいたけれど、話す声の大きさもハリもいつもと全然違う。
ちょっと迷ったけれど、思い切って、聞いてみた。
「もしかして、疲れ気味?」
「わかりますか。実は今日、2回目のコロナワクチン接種をして2日目で、昨日は39度の熱で1日中、寝てたんです」
昨日は、週に一度の彼女の定休日だ。休日の前日に接種して、休日は高熱で寝込み、その翌日には本格始動ということか。
私は2回目のワクチン接種で丸二日間、頭痛で寝込んだ。あのつらさを思うと、今、目の前の彼女がどれほどつらい状況なのか、痛いほどわかる。
人は見た目ではわからない
せめて話をしないほうがラクかと思い、私からはなるべくしゃべらないようにしてみたが、返って話してるほうが気が紛れるようで、カットする手を動かしながら、いつもより2トーンぐら低く小さな声で彼女は語り始めた。
いつもどこでも元気印に見られがちだけど、実はもともと免疫系が弱くて幼いころから病院通いが絶えなかったこと。コロナ禍のこの夏も外耳炎で高熱を出して大変だったこと。外耳炎と確定するまでコロナを疑われてなかなか治療してもらえず苦しかったこと……。
そんなことをポツポツと語ってくれた。彼女とはかれこれ3年ほどの付き合いになるけれど、私自身、いつ行っても元気で明るい彼女のことを、健康の象徴みたいに思っていた。
人は見た目ではわからない。
決して体が強くない彼女は、それでも、ワクチン接種2日目から、頭痛と倦怠感をおして、こうして私の髪をカットしてくれている。
「そんなときは、電話くれたらいいよ。今日はムリって」
と言ってはみたものの、今日の彼女の予約の客は私だけじゃないわけで、気休めにも何にもなりはしない。
私がカラーリングしている間、彼女は別の客をカットしながら、いつもの高いトーンで明るく対応していた。
なんだか、少し泣けてきた。
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