ピアノが元気になっていく
今日、2年ぶりにピアノを調律してもらった。
ようやく来てもらえた!
娘と私は、その調律師さんを「ピアノのお医者さん」と呼んでいる。2年間、調律していない我が家のピアノは、かなり重症だったと思う。
コロナ禍にあったこの2年弱、長時間、家に滞在してもらうピアノ調律は、なんとなく疎遠になっていた。
10月になり、コロナが落ち着いたタイミングですかさずお願いしたけれど、皆、考えることは同じ。順番待ちの列は長かった。
本来は1年に一度のところ、今回は2年以上あいている。
日々、弾いていて、少しずつ音程がずれていることは感じていた。それはとても気持ち悪くて、この気持ち悪さに慣れていくことは、もっと気持ち悪かった。一日も早く、治療してほしかった。
そして本日、ようやく我が家に来てもらえたというわけだ。
私と娘がとても信頼しているその調律師さんは、始める前に必ず、気になっていること、困っていることを聞いてくれる。
音程のズレは言わずもがなだけど、ペダルを踏むと雑音がすること、そしてピアノ椅子の悩みまで相談した。
「椅子は調律とは違うでしょ!」と自分に突っ込んでみたが、誰に相談していいかわからないし……。
でも、調律師さんは嫌な顔ひとつせず、「ちょっとやってみましょ」といつもの笑顔。ありがたい。
それから2時間強。静かに集中モードに入る方なので、邪魔しないよう、私は違う部屋で仕事した。
……が、私が集中できない。いや、調律している音に集中してしまう。
だから、仕事はやめて、本棚から『羊と鋼の森』を取り出し、調律音を聴きながら読み始めた。
調律師の物語を読む
宮下奈都 著『羊と鋼の森』は調律師の物語。
高校時代、体育館にあるグランドピアノの調律風景を偶然目にした主人公が、音の粒が美しく揃っていくさまに魅せられて、調律師の道を歩む話だ。
何度も出てくる調律風景がものすごく素敵で、何度も読んだ。何度読んでも、やっぱりまた読みたくなる。
今日は、我が家のピアノの音が美しくなっていく瞬間、瞬間の音を聴きながら『羊と鋼の森』を読んだ。なんて贅沢な時間だろう。
この物語に出てくる双子の姉妹が、またとびきり素敵なのだが、あまり物語の中に入り過ぎると、抜けられなくなってしまう。いかん、いかん。これくらいにしとこう。
一段落したところでコーヒーを淹れて、「ひと休みしませんか?」と調律師さんに声をかけた。
音が違う。響いてる
で、ピアノの話をしながら、しばしのお茶タイム。
ピアノは木製なので乾燥に弱い。とくに、戸建てに比べて、マンション住まいは乾燥しやすいとのこと。我が家のピアノも乾燥が原因で、中のピンが全体に緩んでいたようだ。
10分ほど休んだところで、「もう少し、続けますね」とピアノの前へ戻られた。
再び、静かに集中していく調律師さん。途中になっていたピアノ内の黒いピンを1つひとつ締め直し、かつ1音1音、キーを合わせて音の粒を揃えていく。
時間の経過とともに、少しずつピアノが元気になっていく。その作業は無駄がなく、ひたすら美しかった。
スタートから2時間半ほど経ったころだろうか。治療は無事、終了。ピアノのお医者さんは帰っていった。
いちばん嬉しそうだったのは、我が家のピアノだ。うん、音が違う。響いてる。
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